周縁飛行

日に日に半径が増大する極大の遠回り。その記録。

202008 石垣島旅行記 ―出発前― 2

2 続・出発前

「まあ、でもよく考えると、我々の人間的成長は急務だよね」

「焦眉の急という奴だね」

「ここでコロナを理由に旅行へ行かず、人間的成長を自らの手で止めてしまうと、どうなる?」

「知らんのか。ニートのまま生涯を終える」

ウエーイ、とはならなかった。さすがに。

「だから、それはまずい」

「でも、ニートやっていればそのうちベーシックインカムが施行されるかも」

「甘いな、日本社会は『俺だって苦労しているんだから、あいつも同じだけ苦労していないのはおかしい』といった、ネガティブな方向にシビアな平等主義の上に展開される奴隷の鎖自慢なんだよ。そんな奴らがベーシックインカムを許容すると思うのか」

カルマ氏の日本観はなかなかに歪だった。

「そんな足の引っ張り合いをしているから、いつまで経っても生産性が上がらないのだ」

「正論は無駄だ。馬の耳に念仏と社畜の耳に正論は同義語なんだ」

「くそう、未来は無いのか」

「案ずるな。だからこその沖縄旅行じゃないか。我々が旅行を通して成長し、しかるのち日本を牽引していけばいい。そうすれば日本も変われる」

「この旅行はもはや我々だけのものでなく、日本の未来がかかっているということか」

「そういうことだ」

「では仕方ない、緊急事態宣言は出ているかもしれないが、日本の未来もまあまあ緊急事態だからな。予約しよう」

こうして無事、石垣島行きの決定は下された。

となれば予約である。昨今話題の『GO TO トラベルキャンペーン』を用いてお得に行くことが狙いなので、JALのダイナミックパッケージを利用することにした。JALは何だか割引金額が段階ごとに固定されていて、そのギリギリを狙うのに苦心した。

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JAL公式ホームページより(2020年7月段階のもの)

散々調整した結果、石垣島10泊(うち3泊は西表島宿泊のため宿カット)、往復の飛行機、レンタカー(石垣島滞在の6泊分)で、1人6万ちょいになった。

なかなかに安い。GOTO万歳。

「いやぁ、思った以上に安いね」

「時間が無限にあるニートの、何と有利なことか」

「あ、ちょっと待った」

ボイスチャットをしながら予約の申し込みを完了し、別途、西表の民宿も手配して達成感に浸っていると、カルマ氏が不意に離席する。

戻って来たカルマ氏は開口一番、こう言った。

「すまん、旅程の中に外せない用事があった。日程を変更しよう」

「ちーん」

我々は確定したばかりの申し込みを秒で取り消した。

その後、再び話し合い、15%分のクーポンが追加され、実質50%引きの商品が出始める9月上旬までペンディングということになった。

ペンディングになっただけである。

保留になっただけである。

必ずや石垣島に行く。我々は……

 

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