周縁飛行

日に日に半径が増大する極大の遠回り。その記録。

202008 星の降る森(群馬県)キャンプ 3

別段、大都会に住んでいるというわけでもないが、外に広がる田園風景を見て我々のテンションは急上昇した。特にカルマ氏は、10連をスカしたことなど一瞬で忘却し、不分明な言葉をおらびながらアクセルを限界まで踏んで爆走。車は風に波打つ稲を次々になぎ倒しながら田んぼを突っ切り、畔に激突して前方宙返りをした後、背中から着地して大破した。

というのは嘘だが、気持ちの上ではそんなハチャメチャな感じだった。

二人とも海の近くに住んでいるので、田園風景の新鮮さが憧憬を喚起したのかもしれない。というどうでもいい分析をしていると腹が減ってきた。

「しかし、飯が食えそうなところは無さそうだな」

「確かに……あっ」

道が二手に分かれている場所で、カルマ氏が『滝の沢茶屋 この先』という看板を発見した。言われて見てみれば、よく気付いたなというくらい目立たない看板が確かにあった。看板の示す道はナビのルートから外れている。

「いやでも、もう、ここまで来たら大丈夫っしょ」

我々に迷いはなく、看板に従って道を曲がり、滝の沢茶屋へ向かった。

「え、ほんとにこっちであってる?」と不安を覚え始めるとちょうど見えてくるくらい先に茶屋はあった。外見は普通の民家で、田んぼの広がる土地にぽつんとあるその茶屋は、偶然カルマ氏が看板を見つけなければ決して行く機会はなかっただろう。そのことだけは確かであり、そのことがまるで宝物でも発見したかのように我々の気分を盛り上げた。

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「いっやー、ええ感じだね」

「まったくええ感じよ」

「この目の前の田んぼ、側溝を流れる水のせせらぎがええ感じだね」

「この暖簾や木の看板もええ感じだね」

「もはやこの死ぬような暑ささえもええ感じだね」

「それはない」

ええ感じすぎて語彙を失ったまま、茶屋の中へと入った。昼少し前だったからか、先客はいなかった。

天井の高い造りになっている店内は涼しく、メニューを見るとそばが幾種類か名を連ねている。滝の沢茶屋はそば屋であった。そば、てんぷら、そして食後のしるこを注文して待っていると、客が次第に入ってきて、最終的にほとんど席が埋まるくらいになっていた。

脳みそがええ感じになっていた我々はそばと天ぷらを食して弛緩状態に拍車がかかり、

「もうこのまま帰ってもよいかもしれない」

「それもええ感じやね」

など言いながら完食した。

そばはコシがあって抜群に好みであったし、天ぷらはサクサクで昼から一杯やりたいくらいであった。いや、どうせ運転はカルマ氏だからやっても良かったが、キャンプ設営を考慮して控えた。

今一度言うと、今回の目的はちゃんとキャンプをすることである。行きがけに酒を飲んで酔っ払ってキャンプがまともにできないなどとあっては、キャンプをしないキャンパー史上でも最低の失態である。

隠れ家的そば屋を満喫し、我々は再び星の降る森へと進路を取った。

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