周縁飛行

日に日に半径が増大する極大の遠回り。その記録。

202008 星の降る森(群馬県)キャンプ 2

アスファルトを焦がす太陽、鼓膜を突き破り脳を発狂させる蝉しぐれ、切り出したての木材が秒で腐るほどの湿気。

夏であった。

というか、夏である。

キャンプである。いよいよ出発である。

「travel」カテゴリーを作っていろいろ書いておきながら、ようやく本当にそれらしい記事が書ける。

ということで目的地は、群馬県の「星の降る森」というキャンプ場である。

星の降る森というくらいだから、そこでは雨が降るくらいのありふれた頻度で隕石が落下してくるのだろう。だとすれば、隕石はものすごく高値で売れるらしいから、キャンプを楽しみつつ、隕石を拾ってメルカリとかで売却し、億万長者になって悠々自適な生涯を送ることが可能となる。まったくもって、これをしない手はなく、ついに我々も長者番付に名を連ねる時が来たかと、カルマ氏と盛り上がりつつ出発した。

繰り返しになるが、今回のキャンプの一番の目的は、ちゃんとキャンプをすることである。そのためにはまずキャンプ場にいなければならない。当たり前の話であるが、今までこれができていなかったがために、キャンプをしないキャンパーなどという不名誉な肩書を背負うことになってしまったのだ。

「キャンプに来ているというのに、街へ遊びに繰り出すとかありえないよね」

「そのせいで、テント設置・夕食が後ろに倒れまくるとか、さらに論外だな」

「今回はあらゆることに余裕をもってあたり、それをじっくり楽しむことにしよう」

「そうしよう」

ということで、テントの設置・食事・焚火の中でも、今回は食事にこだわった。

使い勝手がいいという噂のホットサンドメーカーを購入し、生肉や魚介類の類はすべて排除した。工程を簡略化することで生じる余力をもって楽しむという算段である。

なんといっても今までは暗くなってからBBQを始めていたから、焼け具合がまるで確認できず、ひと口ひと口がロシアンルーレットで、丸焦げも生焼けもありの闇鍋状態であった。

惨めである。

本来の目的を忘れ果て、目先の享楽にうつつを抜かした結果、わざわざそのために時間と予算を割いたキャンプ自体が形無しになるのだ。

二兎を追う者は一兎をも得ず、慌てる乞食は貰いが少なく、そうしたことの集積がますます心の余裕を奪い、余計に焦り、結局失敗を連発する。この負のスパイラルにはまり込むと容易には抜け出せず、人間、どうしてなかなか自分が悪いとは認めにくい頭の構造をしているため、失敗の原因を外に作り出し、血走った目で常に他を威嚇していなければ心休まらない我利我利亡者となり果てるのだ。

「ヤバいですね」

カルマ氏がプリコネを起動しながら言った。

物質的な富裕を極めるのが難しいなら、せめて精神は豊かにありたいものである。今回のキャンプが失敗すれば、我々はまた我利我利亡者へ一歩近づく。後には引けない戦いである。

「そういう考え方がすでに余裕を失っているのでは?」

「確かに」

「肩ひじ張らずに、ほら、10連回せよ」

「それもそうだな。ほい……あ、外したわ」

「うわああああああああぁぁぁぁぁ、終わったああああああぁぁぁ!!!!!」

カルマ氏は絶叫しながら反対車線へ突っ込み、トラックと正面衝突して車は大破炎上、我々は木っ端みじんに吹き飛んだ。

というのは、もちろん嘘であるが、先ほどまでの余裕は木っ端みじんに吹き飛んでいた。

いつの間にか外には田園風景が広がっていた。

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